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【レポート】ー地球と対話するー 南極絵巻と土佐清水の大地

211030_アイキャッチ.jpg2021年10月29日(金)から31日(日)の3日間、土佐清水ジオパークのイラストなどを手がけているSASAMI-GEO-SCIENCEのササオカミホ氏と共催で、アートとサイエンス、そして未知なる地球に触れる試みとして、『−地球と対話する− 南極絵巻と土佐清水の大地』を開催しました。

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南極絵巻展示

南極絵巻とは...
2019年12月から2020年1月16日の期間、学術研究船「白鳳丸」の30周年世界一周研究航海の一部として南極航海(KH19-6Leg4)が実施されました。
国内外の地球科学の研究者約30名が白鳳丸に乗り込み、ササオカミホもその一人として乗船しました。
ササオカは30日間に及ぶ船上での身体経験(研究/調査/食事/生活...)を墨で描き、10mの南極絵巻を制作。
2111030_南極絵巻図1.jpgこの南極絵巻の舞台となったKH19-6leg.4航海は、世界で最も荒れることで調査が難しく、科学データの「穴」となっている海域へ、海洋地球科学の総合的調査として挑んだ航海です。
ササオカは、この研究者たちとともに過ごした約30日間の船上での経験で「未知なる世界への無限の探究を止めない研究者たち」を描いています。

そして、この絵巻は、展示空間を5つの軸で構成する「五次元展示」となっています。

① 私という点
② 二次元平面へ描く
③ 三次元の波型に立ち上げる
④ 30日間の時間軸
⑤ 音と空間の軸

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土佐清水は竜串にある「海のギャラリー」を舞台に、これらの5つの軸で絵巻が展示されました。
土佐清水での展示場所として選ばれた「海のギャラリー」は女流建築家のパイオニアである林雅子氏の作品の一つ。
土佐清水出身の洋画家である黒原和男氏が収集した約3,000種50,000点の貝を展示している施設です。
二枚貝が天に開く様をモダニズム建築の造形表現でまとめ、内部は天窓からの採光と深海のような濃い青の幻想的な空間が広がり、まるで海の中にいるよう。
211030南極絵巻.jpgこの海のギャラリーのエントランスのスペースに、2階の展示スペースから絵巻を吊り下げる形で絵巻を設置。
さらに、南極航海においてサンプリングした「音」が空間を漂います。
海に身をゆだねながら、南極航海を体感できるインスタレーションとなりました。


トークセッション

南極絵巻の展示と合わせ、今回の絵巻の題材となった南極航海におけるプロジェクトリーダーの高知大学の池原教授をお招きし、ササオカ氏とのトークセッションを行いました。ARTとSCIENCE、双方の視点から南極航海を語りながら、「探究すること」を考えていきました。
まずは、ササオカ氏から『探究の眼』と題したお話。
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ササオカ ミホ 氏

ササオカ氏は自身のアートワークを通じて、「知覚のやり直し」を行い、「わからなさ」への眼差しを向けることで、「知覚する身体」への探究を深めています。

知っていると思っていることの中にも、実は小さな「わからなさ」がたくさん存在します。
その小さな「わからなさ」を見つけ、それに対し、どのような眼差しを向けていくか...
物質的に満たされ、便利になってきた現代において、私たちは、考えなくても、生きのびることができる世の中に生きています。
考えることはさほど必要なくなり、より「わかりやすい」ことが求められ、「わからないこと」を知覚する機会は少なくなってきているのかもしれません。
その中で小さなわからなさを見つけ、そのわからなさへ眼差しを向ける。
「知覚のやり直し」を行いながら、「わからなさ」を探究していく。
そして考え続けることを諦めない。
ササオカ氏はこのような探究のプロセスを通じて、表現活動を展開しています。

ササオカ氏は意図的に概念的な話をしながら、頭の中を「?」でいっぱいにさせていきます。私たちは、そこでその「?」にどのような眼差しを向けていくか。
考えなくてもある程度、生きのびることができる現代において、私たちがいかにこの世界を捉え、よりよく生き抜いていくヒントがササオカ氏の話の中に散りばめられていたように感じました。



そして、池原先生からは、『科学の眼』と題して、今回の南極探査の裏側や今回のプロジェクトの概要などを紹介していただきました。
池原先生の専門は、古海洋学や海洋地質学など。海底の堆積物の調査を行い、大昔の気候や海洋の変動を復元する研究を行っています。

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池原 実 氏(高知大学高知コア研究センター教授)

池原先生は、今回の南極探査を含め、学生時代から十数回この白鳳丸への乗船経験があるとのこと。
白鳳丸は、1989年に竣工され、東京大学の大気海洋研究所の主力研究船として活躍。
その後、2004年にJAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)に移管されました。白鳳丸は「共同利用研究船」として運航され、全国の研究者を対象にして研究の公募が行われています。
池原先生は、今回の題材となった30周年記念航海の発案者の一人でもあります。

池原先生の研究では、将来、地球が温暖化していくとどのようなことが起こるかということへアプローチする手段の一つとして、南極周辺の海の地層から、今とは違う環境を記録している堆積物を採取して、当時の環境を復元する研究を行っています。

現在、地球温暖化などの影響から、南極の氷床が溶けていっていると言われています。その原因として、周りの海の状態が大きな影響を与えており、南極海の少し深い部分の水温が上昇することで、棚氷が溶けてきていると言われています。
今回の調査では、過去の気温が高かった時期の、南極の氷床の変化を地層から復元することで、当時の環境変化を読み解いていくそうです。
調べるのは南極海周辺の海洋コアですが、地球全体の気温がどのように変化し、その時に南極の海がどのような役割を担うのか、かなり大きな視点からの研究となるようです。

今回の探査で、採取したコアは、池原先生はじめ、この日、ゼミ合宿を兼ねて来ていらした池原ゼミの学生さんたちによって解析が進められています。

211030_南極絵巻作品解説.jpgトークセッションの後は、参加者たちがササオカ氏や池原先生を囲んで、質問をしながらの絵巻観賞。
絵巻とトークセッションを通じ、海のギャラリーで南極航海を追体験する貴重な体験となりました。また、同じ人間活動である「科学」と「芸術」がボーダレスに、親しみやすいものになったのではないでしょうか。

このように、土佐清水の大地だけでなく、地球のほかの場所を知ることで、グローバルな環境問題や地球システム全体にも目を向けていくこと、誰もが「科学」や「芸術」にアクセスできる機会を作ることも「持続可能な世界」にとって必要なことであり、ジオパークの果たすべき役割であると考えています
また、トークセッションデササオカさんが言っていた「わからなさ」にどのようなまなざしをむけるか、そして、「考え続けることをあきらめない」。これは、ジオパークを進めていくうえでも、これからの世界をよりよくしていくためにも、とても大切なことだとおもいます。


この件に関するお問い合わせ

土佐清水ジオパーク推進協議会事務局
TEL 0880-87-9590
MAIL geopark@city.tosashimizu.lg.jp

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