研究ノート
ウミガメインタビュー vol.1|斉藤先生と学生さん
9月に竜串ビジターセンターうみのわで行うイベントと企画展『ウミガメ入門』に向けて、ウミガメの魅力を広くお伝えするため、ウミガメの魅力の研究や保全活動をしている方の声をお届けします。
第1回は、9月5日のイベントでお越しいただく、斉藤先生と先生の研究室でウミガメの研究をしている学生さんお二人のインタビュー。
知れば知るほど、奥が深い、ウミガメの世界。
ウミガメに魅了され、その不思議な生態を解き明かしている研究者たちのお話です。
プロフィール
斉藤 知己(さいとう ともみ)先生
高知大学総合研究センター海洋生物研究施設・准教授
京都大学農学部卒業後、1994年から名古屋港水族館に勤務
ウミガメの飼育展示・調査研究・保護活動に従事。
水族館在勤中に、東京大学にて博士(理学)号を取得し、2012年より高知大学にて、ウミガメなどの海洋生物の研究を行っている。
髙田 光紀(たかだ こうき)さん
修士2年、研究対象はタイマイ。高知大学のウミガメ同好会『かめイズム』の創設者でもある。
友成 実生子(ともなり みおこ)さん
修士1年、研究対象はアカウミガメ。大学でウミガメの研究をし始めてから、その魅力にどっぷりハマり中。
聞き手 作田 愛佳、今井 悟(ジオパーク推進協議会)
ウミガメの研究を始めたきっかけって?
皆さん、ようこそ土佐清水へ。そして、ようこそ竜串へ。9月にここで行う『ウミガメ入門』にあわせて、皆さんにウミガメのことをもっと好きになってもらうため、今日は御三方にウミガメの魅力を教えていただきたいと思います。
皆さん、元々、小さな頃からウミガメが好きだったんですか?
ウミガメの研究をするようになったきっかけを教えてください。
観察会でファーストコンタクト
友成 私は徳島の出身なんですけど、私が初めてウミガメに触れたのは、ウミガメの産卵しているのを見に行くっていうイベントなんですよ。小学校3、4年生くらいの時に、それに参加したのが一番はじめのきっかけです。
その時に、実際に産卵している光景を目の当たりにして、「うわー、すごいな」って思ったのがウミガメとのファーストコンタクトでした。
そのあとは、特別好きーっていう訳でもなかったんですけど、高校生になって、進路を決める時、高知大学を受験しようってなって、大学でどういう研究してるんだろうって調べていたら、大学のホームページや、斉藤先生が載っていた新聞記事なんかを見て、面白そうだなって思って、大学に入って研究をはじめました。
やっぱり、幼少期の経験から来るものって大きいんですね。徳島の日和佐海岸ってウミガメで有名ですものね。そういうイベントって後進の育成には重要なんですね。
斉藤先生が飼育していたウミガメを見ていた少年時代
大学では、ウミガメサークルも創設
じゃあ、髙田さんは?
髙田 僕は、元々生き物が好きな少年だったんです。
静岡県の三ヶ日町(現浜松市)という愛知県との県境にあるところの生まれでして、あまり海が近くなかったので、山とか川の生き物が中心でした。
だから、ウミガメをはじめとする海の生き物を見に行く場所は水族館で、その頃、僕がよく行ってたのが、名古屋港水族館だったんです。
僕が、名古屋港水族館でウミガメを見てた頃、斉藤先生が勤めておられたので、確実に斉藤先生が手塩にかけて育てたウミガメたちを見てたんだと思います。
元々、爬虫類とか水棲生物が好きだったんですが、研究とかはそんなに考えていなくて、教師になれたらいいなと思ってたんです。
大学では、生物の勉強が出来たらいいやって。それで、入ってから、斉藤先生がいて、ウミガメの研究をしているっていうんで、「あの時、名古屋港水族館でウミガメ育てていた人なんだ」ってなって、というのがきっかけです。
では、髙田くんをウミガメ好きとして育てたのは斉藤先生と言っても過言ではないですね。ウミガメエリートですね。
斉藤 サークルまで作っちゃったもんね。
もしかして、ウミガメのサークル?ウミガメサークルって、髙田さんが作られたんですか?!今日ちょうど、高知大にウミガメサークルあるらしいよっていう話をしてたんですよ。どういう経緯で作ったんですか?
高田 もともと、私がウミガメに興味を持っていて、学部2回生の時から、現在所属している高知大学海洋動物学研究室(通称:甲ら研)のウミガメ調査などに参加させてもらってたんです。その時、学年や学部関係なくウミガメの調査ができる同好会が欲しいと考えるようになり、ウミガメサークルの「かめイズム」の発足に至りました。
また、2年前の室戸ウミガメ会議での他大学のウミガメ同好会の学生たちとの交流も同好会を立ち上げたいと思うようになったきっかけの一つですね。
私を含む当時の4回生4人が初期メンバーとなって、活動内容を決めたり、大学事務への申請をしたりという準備をして、2018年4月に高知大学ウミガメ同好会「かめイズム」として活動を始めました。斉藤先生には、同好会の顧問に就任していただき、大いに活動を支えていただいています。今は、32人が所属していて、理工学部や農学部、地域協働学部など様々な学部学科の学生で構成されてるんですよ。
ちなみに、「かめイズム」という同好会の名前の由来は、飲み会の席で研究室の先輩と同好会名について話していた時、「高知」と「亀」ということで、高知の銘酒の一つである「亀泉(かめいずみ)」にあやかって名付けたんです。ちょうど、その時も亀泉のお酒を飲んでたんですけど。
へ~、名前の由来、亀泉からきてるんだ。やっぱり、カメの研究してたら、飲むお酒も亀にあやかったものになるんですね。おもしろい。
では、活動内容ってどんなことをやってるんですか?
髙田 主な活動としては、「ウミガメの産卵調査」「学会参加」「同好会の文化活動」の3つがあります。
ウミガメの産卵調査は5月~8月の間に芸西村の琴ヶ浜で上陸・産卵の調査を行っています。この浜は、以前からアカウミガメの産卵が行われているという話はあったんですけど、詳しく調査している団体がいないということで、2018年から同好会が高知県環境共生課や芸西村役場の承諾のもと調査を行っています。
2018年では8回、2019年では5回、2020年では6回(8月7日現在)の産卵が確認されてます。これまでの調査で、琴ヶ浜の真夏の温度がウミガメの孵化には高すぎることや、台風などの高波で卵が波にさらわれてしまうというような問題点も分かりました。
学会への参加としては、学生ウミガメ会議と日本ウミガメ会議などの会議に参加していて、他大学やウミガメの保全をやっている方や研究者との交流を行っています。昨年は、日本ウミガメ会議で、研究成果を発表しました。
あと、「文化活動」としては、高知大学の文化祭でミニ水族館を開き、アカウミガメの赤ちゃんの展示などを行いました。
今年の8月1日から31日までの期間はオーテピアにある高知みらい科学館で子ガメの展示もしていますので、良かったら見に行ってください。
これほど近くにウミガメが産卵するフィールドがある大学はほとんどないので、メンバーたちには、ウミガメを通して多くの自然に触れあってもらいたいです。それと、意外と高知県に住んでいる人でも高知にウミガメが産卵に来ることを知らない人も多いので、同好会の活動を通して多くの人に地元の自然の豊かさを再認識してもらいたいですね。
素晴らしい、ウミガメ愛と行動力ですね。ウミガメは、自然の豊かさを再認識することや、環境問題を考えることへのアイコン的存在になり得る生き物ですよね。ぜひ、このサークルの活動も後輩たちに受け継いでいってもらいたいですね。
不器用なヤツほどかわいい
では、斉藤先生はウミガメとはいつ頃からのお付き合いなんですか?
斉藤 大学の卒論の時は、ウミガメは扱ってはいないのです。
隣の研究室が調査チームを組んで和歌山のみなべ町で調査しはじめたんですよ。
現在ではサテライトトラッキング(衛星追跡)が有名ですけれど、そのような生物に装置を乗せて、回遊域の温度とかを調べるバイオテレメトリーの研究が始まった頃なんですけど、計測機器を載せられる頑丈な動物としてウミガメにちょうど脚光が当たって、ウミガメの生態研究が盛んになったんですよ。その時には、私はその調査に冷やかしに行ってただけなんですよ。
ところが、水族館に入社してから、「どうやらみなべで調査していたらしい」という誤った情報が当時の名古屋港水族館の館長(ウミガメの研究者でもある内田至氏)の耳に入ってたんです。名古屋港水族館は当時、屋内環境での繁殖と、野外調査基地を設けて生態研究を行うことの二本立てでウミガメの研究に力を入れていたので、そこに私は配属されたんです。
先生は元々は何の研究をされてたんですか?
斉藤 元々、私は魚の研究をしてたんですよ。
だから今でも魚の方も詳しかったりします。そんな形で働きはじめてから、ウミガメに関わるようになったんです。
でも、ウミガメだけじゃなくて、水族館の勤務はいろんなことをやるんですよ。マグロの飼育もやったし、カツオ もやった。深海生物もやったね。そんな中で、在勤中に「深海のエビ」の博士論文を書いて博士号をとったんですよ。名古屋港水族館ではカメの副担当として約10年、博士号をとった翌春から、カメの主担当になって約10年。計20年間、ずっとカメに関わりました。
へー。なかなか切れない関係だったんですね。
斉藤 そうやって、受動的にカメとは関わってきたんですが、まぁ、カメのような不器用な生物が図太く生きているっていうのは、人の心をくすぐるのではないでしょうか。
餌を食べている姿なんかもヘタで、そういうところがカメの可愛さ、魅力だと思います。
なるほど。わかる気がする。私も最近、このイベントの企画をきっかけにカメのことを調べているんですけど、放っておけない魅力がカメには、ありますね。不器用で、生きづらそうなやつほど可愛いっていう。
斉藤 高知に来てから10年位経ちますので、なんだかんだで、ウミガメ歴は30年くらいになるね。初めは、ウミガメで卒業研究を行った友人(四国水族館館長・日本ウミガメ協議会会長の松沢 慶将氏)の冷やかしに行ったっていう間接的な関わりだったけど。
もっとある!ウミガメの魅力
先ほど先生も少し言ってくれましたが、ウミガメって、どうも人の心をくすぐる不思議な魅力があると思うんですよね。研究されている皆さんにとってのウミガメの魅力を教えてください。
ウミガメのタフで壮大な生き様
友成 そうですね。私、卒業研究でさっき先生が言っていたサテライトトラッキングをやったんですよ。それを見てると、ウミガメって、すごく深く潜るんですよ。水深400 mとか。あと、水温も低いところだと10℃くらいのところなんかも経験してるんです。ウミガメは爬虫類なんで、私のイメージの中では環境の変化に弱いっていう印象があったんですけど、強いなー、タフだなーって思いました。
400 mも潜って水圧とか大丈夫なんでしょうかね?
斉藤 それが不思議なところで、できちゃうんでしょうね。水圧に潰されない頑丈な体と肺の空気を極力少なくしてもガス交換がうまくできる仕組みがあるんでしょうね。
友成 あと、ウミガメって、生まれた瞬間から暗闇にいるんですよね。砂の中なんで。そう思うと、そこから這い上がって来て、海に出るっていうのがもう…
卵から出て、目が覚めた瞬間、「うわ、暗い!ここ、どこ」っていう状態から、砂の上に出て、海まで這っていって、そこから大海原に出ていくっていうたくましさが好きです。
あ~、確かに。考えたら、泣いちゃいそうだね。ちなみに、卵から孵化して砂の上に出てくるまでどのくらいかかるんですか?
一同 1週間くらいですね。
じゃあ、一週間も砂の中でジタバタしてるんですね。ウミガメの赤ちゃんは、砂の上に出たら興奮状態になってよく動けるってきいたことがあるんですけど、それって砂の上に出た瞬間から起こるんですか。
斉藤 海に入って泳ぎ出してからの行動は「フレンジー」とよばれます。それも今調べてるところなんですが、音を聞いてみると、どうやら、砂の中で断続的に、興奮状態になっているみたいです。孵化した直後からではなくて、数日してだんだん動ける体になってくる。砂の表面のわずか下で、間も無く砂から出る時はかなり活発な状態になっている。でも、それも、断続的で、ピタッと止まったり、また活発になったりということもある。
興奮状態には波があるんですかね?
斉藤 砂の中では活発に動いていたり休んだりしていて砂の中から這い出す最後の瞬間と、砂の上に出てからは一気に走り、海に入り泳ぎ続けて24時間くらい、ウミガメの赤ちゃんの興奮状態が続くんです。
へー、すごいですね。まだ、赤ちゃんなのに。知れば知るほど、不思議な生き物ですね。ウミガメは。なんか、グッときますね。では、髙田くんにとってのウミガメの魅力って?
髙田 僕は元々カメが好きで、家でニホンイシガメをずっと飼ってもいたんですよ。水陸両用の生き物がカッコ良くて好きで。いろんな環境使って生きている生き物って面白いなって。海でそういう生き物ってあまりいないじゃないですか。普段海にいて、メスだけですけど、産卵のために砂浜に上がってくるっていうのは。
それと、ウミガメの一生を追っていると、生まれた、ほんの小さくて、手に乗るくらいのサイズだったのが、10年、20年かけて、大きいので100 kgくらいになって、生まれた海岸に戻って来たりして。
アカウミガメなんかだと、特に、スケールが大きくて、アメリカから、太平洋を横断して帰ってくるんですよ。いろんな環境を使って広く生きている生き物ってすごいなぁって、壮大さを感じます。
あー、わかります。私も、ウミガメのこと、調べてる中で、その壮大な一生を知って、打ちのめされた一人です。爬虫類で海に住んでいるのって、ウミガメとウミヘビ以外にはほとんどいないんですよね。そんな珍しい生き物が、世界の海を旅しているってすごいなぁって思いましたね。
13年を経て、ウミガメとの再開
では、斉藤先生お願いします。さっきは不器用さが好きっておっしゃていましたが。
斉藤 そうだねぇ。ロマンかな。
おお、ロマンですか!
斉藤 海に旅立ってから、どこ行っちゃったかなぁってなって、数十年してちゃんと生まれた海岸に帰って来てね。
もしかして、昔会ったカメに再会したってことなんかもあるんですか?
斉藤 放流したカメが見つかったってことならあるよ。1995年に、水族館で生まれたカメにタグをつけて愛知県からはなした個体が、13年後に長崎の対馬の定置網にかかったんです。実は、その兄弟にあたるカメを水族館で、飼い続けたんですね。そのカメは甲長85㎝、体重も80 kg位だったのに対して、対馬で見つかった個体は甲長が50㎝、体重が45 kgと、半分くらいの大きさだったんです。それを見て、「これが自然を生き抜いたということなんだな。」って思ったんです。
だいぶ小さいですね。なぜ、そんなに差があるんですか?
斉藤 水族館だと、冬も水温を高く維持して、栄養価の高い餌を与え続けていて、10数年で倍近くの大きさの差になるんですよ。そのくらいに成長するポテンシャルは元々あるんでしょうけど、自然界で育つというのは、並大抵のことではない。すごく厳しいってことが、それを見てわかったんです。
さらにその対馬であがった個体を隣の水槽で飼ったんです。人工環境下と、自然界で育った兄弟を並べてね。
私が、餌をあげに行くと、水族館で育ったカメは、すぐに水面にあがって餌をねだるんだけど、野生育ちのカメは、絶対に水面に上がってこないのよ。どんなに待っていても。水槽の底の人に見えないところでじーっとしている。
うわーなんかカッコいいですね。野生を捨てていない感じで。
斉藤 それで、24時間どんな生活しているかビデオに撮ってみたんですね。日が上がるとともに、水族館で育ったカメは活動し始めて、人がくると、わーって寄って行くのね。一方、野生個体は、人がいる時間はほとんど水面に上がってこない。一時間に一回くらいしか。一方、夜、人のいない間に水面付近で泳いでいる。それくらいに警戒心が高くて。自然を生き延びた猛者なんだよね。
兄弟で全く違う生き様ですね。
斉藤 それを見て、これまで人工環境で飼育や研究をして、色々知った気になってたけど、自然のことは分からないことだらけだなーって思った。それで、もっとフィールドで研究してみたいっていう気持ちになって、高知に来ました。こっちに来てからは、フィールドでの研究が増えてますね。
そういうふうに、色んな姿を見せてくれて、まだ知られていることが少ないロマン溢れる動物だと思うな、ウミガメは。
ありがとうございます。素人の私は、ネットで調べたくらいなんですが、知れば知るほど、気になる生き物で、最近私も心を半分くらいウミガメに掴まれてしまっていました。皆さんの話を聞いているとますますウミガメが好きになってしまいますね。
土佐清水はウミガメのサンクチュアリ?!
最後に、土佐清水ってウミガメにとってどんな場所なんでしょうか。
斉藤 やっぱり、土佐清水は高知県の中でも黒潮の影響が特に大きいところですよね。ウミガメは幼体も黒潮とともに旅立つし、成体も黒潮とともに動いている。黒潮と密接に関係している動物だから、黒潮があたる足摺半島は、ウミガメの聖地といってもいいかもしれない。
おお。そうかもしれないですね。足摺岬に弘法大師ゆかりの「亀呼場」っていう場所があって、かつて弘法大師がここからカメを呼んで、カメの背中に乗ったと言われているところなんですね。私も初め、そういう伝説よね。都合よく出てくるはずないって思っていたんですが、断崖の下の海を見たら、たまにカメがいるんですよね。たぶん、亀呼場で見えるのはアオウミガメだと思うんですけど。
今井 僕も初めて見た時、びっくりしました。カメって珍しい生き物だと思ってたんですけど、初めて足摺岬に行ったとき、ぼーっと海を見てたら、ぷかぷかなんか動いてるから、初め死体かと思ったもん。しかも、一匹じゃなくて、めちゃくちゃいるんですよ。
なんかそういうポイントがあるんですかね。亀呼場近くに餌があるとか。
斉藤 そうかもしれないですね。海藻があって、餌場にしているとか。
そうだ、ウミガメサークルで「亀呼場の不思議」ってことをテーマに調べてみてくださいよ。
髙田 じゃあ、後輩に言っときます。
ぜひぜひ、土佐清水を研究のフィールドとして使ってくださいね。色々お手伝いもしますので!
では、斉藤先生、髙田さん、友成さん、どうもありがとうございました!
皆さんの話を聞いてたら、ますますウミガメが気になる存在になってきました。
これからもウミガメの研究、頑張ってくださいね。