土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

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研究ノート

ウミガメ観察日記

ウミガメという生き物は、その独特なフォルムからか、古今東西の人々を魅了してきました。
浦島太郎のような昔話もありますし、土佐清水にも亀呼場や亀石などウミガメにまつわる場所や言い伝えが残されています。

アカウミガメの産卵地でもある竜串の桜浜は、ウミガメの存在をすぐそばで感じられる場所。
そんな場所で働いていると、ウミガメのことがどうしても気になってきて、子ガメの旅立ちを見届けたいと思うようになりました。

竜串、桜浜にアカウミガメが産卵してから、子ガメが脱出するまでを追ったウミガメ素人によるウミガメ観察ドキュメントです。

2020年5月25日 今年初めての産卵を確認

この日の早朝、桜浜のほど近くにお住まいで、毎朝、桜浜を散歩するのが日課の平野さんから今井専門員に「カメさんが来ちょったぞー」と連絡がありました。

第一発見者の平野さん。毎日桜浜を見ている、桜浜の守り人のような方です。平野さん.jpgそして、平野さんから連絡をもらったウミガメ調査員の溝渕さんも駆けつけて、産卵場所の調査をします。

溝渕さん.jpgこちらが溝渕さん、このあたりでウミガメといったら溝渕さん!その名を全国に轟かすスゴイ方。今年で、ウミガメの調査をし初めて28年とのこと。いつも、青いつなぎ姿で登場します。

卵を見つかりにくくするために、母ガメは、産卵場所をカモフラージュすることがありますが、溝渕さんは長年の経験から培った鋭い観察眼で、産卵場所を掘り当てます。

平野さんと卵.jpg卵発見です。

卵に異常がないか、ノギスで正確な大きさを測定します。

卵がきちんと産み落とされていることを確認したら、埋め戻して、産卵場所とわかるように柵で囲って、産卵の調査は終了。
もっときちんと調査する場合は、卵がいくつあるかなども調べるようですが、この日はここまで。

ウミガメは1回の産卵で120個ほどの卵を産むようで、一度産卵してからしばし休んで、初夏から夏の盛りにかけて4〜5回ほど産卵するようです。
産卵シーズンのメスガメは結構忙しいのです。そして、ワンシーズンに産む卵はトータルで500個以上となり、なかなかの数を産みます。
そんな忙しい産卵シーズンを終えた後は数年ほど産卵をお休みします。(だいたい2〜4年の周期で産卵を行うようです。)

今年は、8月17日現在で、桜浜では計4度の産卵が確認されていますが、同じ個体によるものである可能性が高いそう。タートルトラック空撮ウミガメの上陸痕です。右側が上陸する時のもの、左側が海へ帰る時のものです。大きさをわかりやすくするために、スケールがわりに今井専門員が寝転がっています。


ウミガメの孵化と性別の決まりかた

さて、産卵が行われてから、ウミガメが孵化して砂から出て、大海原に旅立つまではだいたい平均で60日くらいとのこと。
砂の中で太陽の熱によって温められ、孵化までの日にちは、ある一定の温度の累計で決まります。

実は、それ以外にもウミガメの卵と砂の温度にはただならぬ関係があります。
なんと、卵の時の砂の温度によって性別が決まるのです!
だいたい29度より低いとオスに、高いとメスになると言われています。(このように温度で性別が決まることを「温度依存性決定」といって、カメやワニなどの一部の爬虫類で見られます。)

となると、地球温暖化などの影響でメスのカメばかりになるんじゃないか?!と不安になりますね。実際、こんな研究結果も発表されていて、気になるところです。
   ↓

温暖化でウミガメの99%がメスに、オーストラリア

子ガメの孵化から脱出まで

ウミガメは卵から出てきて、5〜6日は砂の中にいます。
生まれてきたら、世界が真っ暗で、砂の中だと思うとなんだか大変ですね。
子ガメたちは生まれてからしばらく砂の中でジタバタします。ジタバタすると上の砂が下に移動するので、産卵場所に凹みが見られるそうです。

私たちは、産卵から60日が経過して以降、ほぼ毎日、砂の表面を見ていましたが、それらしい兆候は見られませんでした。(多分、溝渕さんなんかが見たらわかるのでしょうが、私たちには、よくわからず…まだまだです。)

5月25日に産卵が確認された場所では、74日後の8月7日に子ガメの脱出が確認されました。

この日も早朝6時前に平野さんからウミガメコールがあり、現場へ。

子ガメ生痕.jpg

平野さんは、海に向かう子ガメちゃんたちを見たらしいのですが、私が着いた時には、すでに脱出は終わっており、砂の上には、子ガメたちが這った痕が残されていました。上の写真のちりめん状になっているのが、子ガメのタートルトラックです。

平野さん曰く、「普段の脱出はこんなもんじゃない、もっと痕がついているはずだから、また今晩も出てくる。」とのこと。
ネットなんかで調べていると、子ガメの脱出は、まるで火山が噴火するように産卵場所から子ガメたちが溢れ出してきて、それが一気に海に向かうとのことで、それはなかなか壮観な様子。

ならば、ぜひ、脱出が見たい。

そんな思いが強くなり、その日の夜、再び桜浜へ。

しかし、待てど暮らせど、出てきそうな気配はない。
何度か、家へ帰ろうかとも思ったが、帰ったあとに出てきたら、それは悲しすぎる。
ひとり、ウミガメの産卵場所を見たり、星空を眺めたりしながら時間を過ごしているうちに、ついに、東の空が白んできてしまったではないですか。
ウミガメ初心者に一晩中砂浜で過ごさせてしまうとは、やはり、ただならぬ魅力というか魔力のようなものがウミガメにはあるのだと思います。

徒労に終わり、もうそろそろ、帰ろうかしらと思い、帰り支度をしていると、あの、ウミガメ調査員の溝渕さんが登場。

私は見落としていましたが、1匹だけ脱出していたらしく、這った痕が。子ガメ生痕2.png

どうやら、まだ穴の中にウミガメたちがいて、このままでは自力で出てこれないらしく、救出が必要なよう。

この後、産卵の時の第一発見者の平野さんと、いつもウミガメを取材してくれている読売新聞の記者さんも呼んで、掘りだしました。

掘る溝渕さん.jpg今回も溝渕さんは、見事なまでにピンポイントで赤ちゃんガメたちがいるところを掘り当てます。

こちらが砂の中から救出された赤ちゃんガメ。
手をばたつかせて元気でした。

子ガメ.jpg砂の密度があり硬く、上まで登って来られなかったり、ハマゴウの根っこに引っかかっていたようです。

そして、砂の上にそっと離してやると、海に向かって歩きだしました。
本当だったら、もっと動きがいいらしいのですが、砂の中で消耗していたのか、足取りは重い。
しかしながら、着実に前へ前へと進んでいきます。

途中、プラスチックゴミなどに引っかかって、なかなか進めません。
マイクロプラスチックが世界的な問題になっていますが、ウミガメの脱出にとっても海辺のゴミは大きな障害になります。

幾多の困難を乗り越えながら、波打ち際までやってきて、波に乗って大海原へ旅立った姿を見送ります。すぐに見えなくなってしまいましたが、水に入るとあの重い足取りとはうって変わって、スイスイと泳ぎだしました。
波間に消えていく姿を見送ると、なんだか目頭が熱くなってきました。

こんな感じで、合計12匹を掘り出して放流。

残念ながら、砂の中で息絶えた子ガメも5匹掘り出しました。

ウミガメ孵化調査.jpg

この後、今井専門員も合流して、さらに卵の殻も掘り出します。

卵.jpgこちらが卵の殻。
右側にある割れたものは無事に孵化した卵。
左側にあるものは孵化できずに腐ってしまった卵。

死んだ赤ちゃんガメ.jpgそして、こちらが砂の中で息絶えてしまった赤ちゃんガメたち。

無事に海まで出て行った赤ちゃんたちもおそらく多くは、途中で魚や鳥などの外敵に食べられてしまうようで、この中で1匹でも大きくなればいい方なようです。

生きていけないリスクが高いから、たくさんの命を産むのがウミガメの戦略なのだと思いますが、こうして、息絶えた赤ちゃんガメたちを前にすると、生き抜くことって、カメにとって本当に難しいのね…と神妙な気持ちになります。

液浸標本.jpg死んでしまった赤ちゃんたちで液浸標本を作りました。液に浸けている間に、形が変わらないように、ピンや竹串などで押さえています。

タートルトラック標本.jpgあと、こちらは今井専門員念願のタートルトラックの標本。
脱出時に子ガメたちが這っていった痕の型を取りました。

竜串VCでの企画展『ウミガメ入門』

この日の孵化調査で手に入れた資料や標本は”うみのわ”で、2020年9月に開催している企画展『ウミガメ入門』に展示しました。
企画展の詳細はこちら。ウミガメの赤ちゃんもuminowaで展示していましたよ。
みんな大好きなウミガメ、またどこかでパワーアップした企画をしていきたいと思います。



このようにウミガメのことを見守っていると、だんだんとウミガメのことが気になってしょうがなくなってきて、どうすれば、ウミガメにとっていい環境を作れるのか?という気持ちが沸き起こってきます。

ウミガメは世界中の海を股にかけて生きるスケールの大きな生き物、それでいて、見た目がチャーミング。故に、環境保全を考えるにおいてはアイコニックな存在でもあります。

ウミガメのことをきっかけに、土佐清水の自然の豊かさを知り、海の環境保全など、地球のことを少し考えて見ませんか。

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