土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

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研究ノート

ウミガメインタビュー vol.2|カメ仙人こと溝渕さん編

みんな大好きなウミガメの魅力を、ウミガメの保全や研究にかかわっている方たちに語っていただく『ウミガメインタビュー』。
第2回は、「このあたりで、ウミガメと言ったら、この人の右に出るものはいない!」といわれるすごいお方!カメ仙人こと溝渕幸三さんに、ウミガメのことを語っていただきます。
地道なウミガメの保全活動や、長年、現場で見てきた溝渕さんしか知り得ないウミガメの秘密を教えていただきました。

溝渕さんインタビュー1.jpg竜串ビジターセンターうみのわにて。

プロフィール

溝渕 幸三 さん

下ノ加江中学校に校長として勤務していた頃に学校教育の一環でウミガメに関わり、地域における調査や保全の中核を担うように。今年でウミガメ歴28年、下ノ加江中校長の頃から、カメ仙人とも呼ばれており、ウミガメの調査や保全活動の第一人者。

ウミガメ保護を始めたきっかけ

▶︎まず、溝渕さん、この辺でウミガメといったら、必ずと言っていいほど溝渕さんのお名前をお聞きします。
そして先日は、探偵ナイトスクープ[2020年7月10日放送(高知では7月23日放送)]にもウミガメ少年の親友の「ウミガメ仙人」として出演されてましたね。
そんな溝渕さんが、ウミガメの保全活動を始められたきっかけを教えてください。

それは、自分が教員やりよった時のことで、28年前に下ノ加江中学校におった時からやね。(※溝渕さんは、下ノ加江中の校長先生をH4年~H12年までやっていました。)
そのときに、岡田くんっていう、進行性の筋ジストロフィーっていう難病を抱えた男の子が入学してきたがよ。
ちょうどその年に、下ノ加江の浜で11回も、今までなかったくらいのウミガメの産卵があった。
それで、その岡田君をはじめ、生徒みんなの学習のためにウミガメの保全をやろうってなって、取り組み始めたがよ。
その時のPTAの副会長をしよった岡田さんと二人が中心になってやったね。そういうことで、環境学習っていうことで学校全体で取り組んだ。

下ノ加江の浜の入り口にウミガメのことを書いた大きい看板があるやろ。
あの看板は、その子が小学校のときに学んだことをもとに作っちょうがやけん。

溝渕さんインタビュー2.jpg↑下ノ加江の浜の入り口にある看板。岡田さんの詩が「生きる」ことの尊さを教えてくれる。

看板に谷川俊太郎さんの詩をモチーフにその筋ジストロフィーやった岡田君が「生きる」ということをテーマに詩を作っちょうがね。
心にずしんとくるような内容やけん、あの看板に悪戯したり、汚したりする人はおらんね。やっぱり、みんな感じるものがあるがやと思う。
それから、その子は中学校3年生の秋に亡くなってしまったんやけど。そんなことがあって、ずーっと続いたね。許可をもらって、学校に孵化施設を作って、飼育をしたりね。

溝渕さんインタビュー3.jpg↑旧下ノ加江中にあった孵化施設『カメハウス』

昔は、大岐の浜にも自由に車が入れよって、卵が潰れたこともあってね。
これじゃあいかんって、卵を学校の孵化場に持ち帰って、孵化させてから、大岐の浜に放流したりもしたね。
そういうことをやっているうちに、ウミガメを守ろうっていう意識が高まってきて、浜に車も入れんなったね。

なんでもやりこむ性格故、カメ仙人の道へ

▶︎じゃあ、溝渕さんは、学校の活動の中から、ウミガメに関わり始めたってことで、初めからウミガメに興味があったというわけではなかったんですか。
すごい知識と情熱を持たれているので、小さな時からウミガメが好きだったのかと思ってました。

だいたい何にでも好奇心があるけんね。
何にでも首を突っ込んでみたくなる性分ながよね。
これまでも趣味がいっぱいあって、スキーやら、旅行やら、水泳やらもやったね。
自転車で九州回ったり、車で日本全国一周やったりもしたね。

▶︎ものすごい行動力がありますね。
今でもウミガメ以外にも漢詩写真展や、短歌も作ったりされてますもんね。

それと、神社の御朱印帳とか旅館の記念スタンプなんかも集めて、記録に残しよったね。


▶︎ウミガメのことも、こうやって、記録帳にされてますもんね。

溝渕さんインタビュー4.jpg↑溝渕さんによるウミガメ観察日記『浜の訪問者』竜串ビジターセンターうみのわで閲覧できます。

ウミガメに関わるようになって、日本ウミガメ協議会にも登録したね。
僕は、勉強のために毎年行われるウミガメ会議にも出よったけんね。それで、日本ウミガメ協議会の人たちとも親しくなってね。
まぁ、これば凝ってやる人もおらんかったがやろうね。

▶︎私も実は、先日からこうして、ウミガメのことを調べているうちに、ウミガメのことをだんだんと好きになってきている気がしているんですけど、溝渕さんにとってのウミガメの魅力ってなんですか?
溝渕さんをそこまで動かす魅力のようなものがウミガメにはあるのかなと。

なんやろうね。僕の場合はさっきも言うたように、単なる好奇心よ。
あと、子ガメの脱出を見たら、それは感動するね。
100匹近いのが砂の中からどんどんと溢れ出てくる。これを見たら感動。
あれをどういう風にいうたらえいかわからんけど、とにかく「感動」。
脱出の前になると蟻地獄のように砂が落ち込んでくるがね。でも、人が近くで喋ったり、明かりがあったりしたら、外敵がおると思うて、上のカメが上に動かんなる。上がって行こうとしなくなる。でも下から押し上げてきて、ゴロンと落ちるろ。それを合図に、やっと動きだして、孵化した子ガメが地上に押し寄せてくるがよ。あれは、いつ見てもすごいね。

▶︎へー、それはぜひ、見てみたいですね!今度、徹夜して見てみますね。


溝渕さんのウミガメ調査

▶︎ウミガメの産卵シーズンってどういう生活スタイルなんですか?

調査をはじめた頃は、晩ご飯食べたあと、8時、9時くらいに、浜に行って、そのまま浜で夜を過ごして、明くる日の朝帰ってくる感じやね。

▶︎その間、ずーっと砂浜見よう感じですか?

そうそう、砂浜見ようね。

▶︎じゃあ、いつ寝てるんですか?

寝れる時やね。砂浜でも寝よったで。
うとうとしよったら、頭の上をハクビシンが通ったりね。

▶︎一人で行ってたんですか?

そんなん、誰も相手してくれるわけないろ。
退職してからは平野と双海をメインに観察しているね。勤めようときは、大月のほうも回ったりもしよったけんどね。
それが、平野と双海は誰もこれまで調べてなかったがよ。それなら、自分が調べてみろうとね。上陸が確認されたら、全部測って記録してね。
足跡測ったら、だいたい大きさもわかるし、波打ち際を見たら、その時の潮位とかで、だいたい何時くらいに上がってきたのかわかるがよね。
うまいこと、産卵するカメに出くわした場合は、
・海から上がって、どういう行動をしたのか
・何分かかって産卵場所までたどり着いたのか
・掘りだしてから卵を産むまでに何分かかったか
・卵を埋めるのに何分かかったか
・海に入るのに何分かかったか
そういうのを事細かく記録するがよ。

溝渕さんインタビュー5.jpg↑ウミガメの上陸調査をする溝渕さん。足跡(タートルトラック)でだいたいの体の大きさがわかる。


▶︎最近の産卵シーズンの1日のスケジュールは?

黒潮町の田野浦から始めて、出口、四万十市の平野、双海、下田の「とまろっと」の下の砂利浜、それから名鹿、土佐清水に入って、下ノ加江、大岐に行きようね。
桜浜は地元の平野さんが見てくれようけん、産卵の連絡があった時だけね。
3時くらいから始めて、3時間くらいかけて清水の方まで来ようね。
産卵があった場合は、産卵巣を掘って、産卵があったかどうかを調べるけん、もう少し時間はかかるかな。

▶︎産卵せずに帰ってしまうこともあるんですもんね。

そうそう、産卵してない場合もあるし、卵に異常がないか、上陸が確認されたら、砂を掘って、卵を確認するがね。
卵も正常なものと、長いものとか小さいものとか変形した卵があるがよ。
そういうのを全部測って記録に残していくわけよ。
卵があることを確認したら砂の中に戻すがやけど、平野、双海は数年前の台風で砂がなくなってしまって、放っておいたら、下から水が染み込んできたり、雨水が入り込んだりして、腐ってしまうがね。
そういうのを何回も経験しちょうけん、掘り出して、高いところに作った孵化場にあげるがよ。それ以外のところは自然にまかすってスタンスやね。



溝渕さんインタビュー6.jpg↑卵に異常がないか、砂を掘って確認する。


▶︎今年は溝渕さんがまわっているところで、産卵した事例はいくつあるんです。

24かな。(7月28日時点)

▶︎24もの産卵巣を気にかけてくれているんですね。ありがとうございます。
ウミガメは、産卵場所をわからんようにするために埋めたところをカモフラージュするので、素人では、足跡見ても正確な卵のある位置がわからんらしいですね。
先日、桜浜で上陸があったときの調査でも、溝渕さんは、見事に卵の場所を正確に掘り当てていてびっくりしました。

それが、最近は、省エネタイプばっかりで、さっと産んで、さっと帰ってしまう子たちが多くて、カモフラージュもせんのがおるね。
大岐には昔、すごいウミガメが産卵に来よったのね。
それで、4、5頭もいっぺんに来て、足跡もいっぱいあるっていうことがあったね。
そうなると慣れてないと、産卵場所の見当をつけれんがよ。今やったら、なんぼあっても当てられるけんどね。

溝渕さんインタビュー7.jpg↑ウミガメの産卵調査の様子。溝渕さんは足跡の様子や砂の柔らかさなどからピタリと卵の場所を掘り当てる。(右:溝渕さん、左:今井専門員)


ウミガメとのエピソード

▶︎こうやってウミガメの産卵を実際の現場で見てきた溝渕さんの、ウミガメとの思い出のエピソードを教えてください。

昔、屋久島のウミガメの保護で有名な方に、浜辺でカメが眠るという話を聞いたことがあってね。「何を言いよら」と思ったのやけど、実際、自分もそれにでくわした。
双海の浜辺で岩に片腕を上げて、動かないウミガメがおったがよ。
死んでいるんじゃないかと思ったけど、近づくと寝ていて、自分も近くですっかり寝入ってしまったのね。
そしたら、空が白んできて、サーファーなんかも来て、ワイワイいいだしてね。
きっとサーファーもびっくりしたでしょうね。「カメと人が死んでいる」って。
それで、ワイワイみんなが言い出して、カメも動きだしたわけですよ。

▶︎へー、すごいですね。カメも陸に上がると疲れるんでしょうかね。

疲れると思う。平野や双海はあまり産むのに適した場所がなくて、何百mも移動して、やっとこさで産んだら、休み休み海に帰る個体もおる。
卵も3キロ、4キロも入っているからね。体には負担やろうね。

▶︎メスにとって産卵はその時でないとできないのですか。

その日に産まんかったら、次の日に来るっていうのもある。
でも、長いこと腹に持っておくのはしんどいろうね。
一度穴を掘って産んで、ちょっと移動してまた穴を掘って産んで…というケースを今年、名鹿で見た。産んで、穴を埋めたあとにポトポトと卵を落としていくような個体も見たことがあるよ。
サメに食べられて、後ろ足をなくした個体も見たことがあるね。
片足だけで掘るから、時間がかかって、全部掘りきらんで、諦めて、明け方に海に帰っていったね。砂浜が雨でぶよぶよになって、腹がつかえて動けんなったカメもおった。それをサーファーたちと一緒に助けたっていうこともあったね。


▶︎溝渕さんは、いつか竜宮城への招待がありそうですね。しかし、ウミガメが生きて、子孫を残すのって大変なんですね。





ウミガメの不思議な生態

▶︎産卵した後は、砂の温度によって、孵化するまでの日数が変わってくるらしいですね。

そうやね。大体平均で60日くらいと言われているね。
孵化率はいい時で、90%くらい。自然に任せちょった場合は60%やね。
まだ5月の初め頃、暑くないときに産卵したら、砂の温度も低いけん、砂の中に卵はあるけれど、胚の発生はまだね。温度が上がってきてから、卵の中で成長が始まるがね。
29度を境にして、早めに産卵があった時は、まだそんなに温度が高くないけん、出てくる卵はオスばっかりやね。

▶︎え?ウミガメの性別は温度で決まるんですか?

そうそう、温度依存性決定っていうて、カメとかワニとかの爬虫類で見られるがやけど、胚の発生の時に経験した温度がだいたい29度より低ければオス、高ければメスというふうに、温度で性別が決まるのよ。

▶︎じゃあ、温度が低い頃に発生したのはオスばっかり、高いときの物はメスばっかりっていうこともあるんですか?

それはもちろんあるね。
うまいことできちょって、1シーズンにカメは2週間くらいの間隔で3~5回くらい産卵するがね。
それで、3回産卵したとしたら、1回目に産んだ卵はまだ、温度がそんなに高くないけん、オスばっかり。2回目は半々、3回目は熱い時に産卵するから、メスばっかり、こんなふうにできている。

▶︎へー、うまくできてますね。地球温暖化のことが気になるところですけど。
1シーズンに何回も産卵するんですね。メスガメは、忙しいですね。

桜浜も、現時点で4回産卵があったろ。
これはおそらく全部同じ個体によるものか、2頭が2回ずつ来ているか、その可能性が高いね。
だいたい2週間の間隔が空いていて、これは1頭が産卵に来るインターバルとだいたい重なるのね。

↓2020年の桜浜におけるアカウミガメの産卵状況溝渕さんインタビュー10.png

▶︎じゃあ、5月に産卵に来た後に、どこかでオスガメに会って、また生殖して、産卵に来るんですか?

ううん、メスガメは一回交尾したら、精子を体の中に溜めちょけるがやけん。

▶︎えー!すごい機能ですね。じゃあ、1匹のオスの精子を保管してるんですか?

1匹だけじゃないね。複数のオスの場合もあるね。
同じタイミングで産卵して、孵化した子ガメでも父親が違うってことはあるよ。
私がずっと調べてきた交雑種が見られる場合もあるね。完全に色の違う個体が出てくることもある。

▶︎へー。人間を基準にして考えると、不思議なことばかりですね。


気になるウミガメの今後

▶︎溝渕さんが保全活動を始めた頃と、今で、ウミガメの保全に関わることで違うことってありますか。

最近は、交雑が気になるね。
始めた頃に、どうもアカともタイマイとも見分けのつかんカメがおったりして、「交雑がありゃあせんか」と専門家に聞いても、「自然界にそんなことあるわけがない」って笑われたわけよ。今は、交雑があるというのは定説になっているけどね。
ブラジルの方なんかでも交雑は多いみたいやね。この辺でも、タイマイとアカだけじゃなくて、アオウミガメとアカウミガメっていう風に、どんどん見つかってきた。
学者らの目にも入るようになったんやね。
推測でしかないけど、僕らが始めた28年前は、アカウミガメがものすごい減った時期なのね。それも、今交雑種が増えている原因かもしれない。

▶︎減った原因って何ですか?

漁師さんの網に引っかかってしまう混獲がものすごく多くて、数が減ったのね。
アカウミガメは生まれてから太平洋を横断してアメリカとかメキシコのあたりに行って、20年くらいして、日本近海に戻ってくるんだけど、帰ってきても、数が少なくて、交尾する相手がおらん。そういうことで、数のバランスが崩れてしまったんではないかと思う。
あと、温暖化によって、生息範囲も変わってきたのもあるだろうね。
アカウミガメとタイマイなんかの生活する範囲が混ざり合う、そういうところから、交雑が多くなっているんじゃないだろうかと思っている。

あと、今は、マイクロプラスチックがすごいね。
遠くから見たら、砂浜が白くて雪が降ったみたいで綺麗なんだけど、よく見たら小さいプラスチックがいっぱい。
まだ見えない小さなものなんかを魚が食べて、その魚を自分たちが食べてということになって心配やね。

▶︎ここ数年ですか?マイクロプラスチックが浜辺で目立つようになってきたのは?

そうやね。この10年くらいの間に目立つようになったね。
ウミガメもプラスチックのゴミをクラゲなどと間違って食べてしまうこともあるし、元々自然界には無いものやけん、やっぱり心配やね。

▶︎これは、我々、人類が地球で住んでいる限り、しっかり向き合っていかないといけない問題ですね。



ウミガメのためにできること

▶︎ウミガメって、世界中に生息していて、見た目も独特でチャーミングで。そういう動物なので、地球環境のことを考えるにあたって、シンボリックな存在なのかな…と思うのですが、今後、ウミガメの保護などをする上で、私たちにできることって何でしょう。ウミガメのためにはどのようなことが必要なんでしょうか。

難しいね。難しいけれど、現実の海の環境のことを知ってもらうことが大事やろうね。
これまで何回か、「ウミガメと環境」であったり「ウミガメと漂着物」というテーマで展覧会なんかもやってきたんですけど、その展示を見て初めて海洋ゴミなんかの問題を知るという人も多いんですよ。
そういうふうにして、知ってもらうということが大事やと思うね。

▶︎そうですね。そうやって知ってもらうということは、ここビジターセンターの使命だと思いますね。

そうそう。四万十市でもウミガメの展示をすると、この辺りの海岸でウミガメが産卵にきていることを知らず、驚く人もいる。
展示なんかで紹介したことをきっかけに、ウミガメに興味を持って勉強してくれた人も多いよ。
あと、浜辺が明るすぎたり、騒がしいと、産卵に上がってくることができなくなるし、孵化したカメも浜辺が明るいと海まで辿りつけんことがある。
通常、海の方が明るくなるので、カメは光に向かって歩いていく性質があるがね。
やけん、ライトつけてゴゾゴゾしたらいかんがね。
名鹿の浜は道路隔ててすぐに海で、道路の向こう側にトイレや自動販売機があって明るいけん、孵化したら、海じゃなくて道路側に行ってしまって、迷ってしまう子ガメもいる。

→桜浜の2号地(2020年6月11日産卵、8月17日脱出)も脱出した子ガメが近くの建物の明かりにつられ、海までまっすぐ進めず、蛇行した跡が確認できました。また、ハマゴウの群落に迷いこんで絶命した個体もいました。

▶︎じゃあ、砂浜の近くに建造物を建てる時は、夏場の夜は、光を出さんようにするとか工夫した方がいいし、私たちも夏の砂浜で夜を過ごす時は、無闇にライトをつけるのではなく、暗さを楽しめるようにならんといかんですね。

そういうこと。
室戸の道路を直す時には、ライトは山側に照らすとか、光が広がらんようにするとかやってもろうたね。



ウミガメと地形の関係

▶︎これ、平野の浜の地層の標本です。

溝渕さんインタビュー9.jpg
↑平野の浜の剥ぎ取り標本。黒く線が入っているのが砂鉄の層。

やっぱり、砂が細かいね。

▶︎ここは、砂鉄が多いですね。

ここは、砂鉄が多いところながね。この砂鉄が多いと砂の温度が変わってくるね。

▶︎メスが多くなるんじゃないですか。外気温もですけど、砂浜の性質で性別のバランスは変わってきますね。

そうね、それはあるだろうね。


▶︎平野の浜は、後ろが海食崖になっていて、侵食作用が強そうなのに、こういった細かい砂になっているのは面白いですね。

そう、あそこは後ろがいきなり崖で、隣の双海もそう。
平野なんかは、2時過ぎたら日陰になるけん、孵化までの日数がものすごく長くなる。
113日もかかったことがあった。
これは多分、日本一遅い孵化やったと思う。世界では2番目、1番遅い事例はブラジル。
113日のケースは11月にはいっちょって、自力では出てこれんで、掘り出したことがある。

▶︎この地層を見ても、崖の近くでとってるんですけど、こうやって縞縞が見えるということは、やっぱりかなり水が流れているってことですね。
しかも砂鉄は重いですから、結構な流れがこないと流れないですけど、動いているんで、崖のすぐ下まで結構な水の流れがきてるってことが、この標本からも読み取れますね。

面白いね、これ。

▶︎溝渕さんの興味の対象がさらに広がってますね。こうやって、今井の専門の地質とウミガメとか他の研究とコラボできたらいいですよね。砂浜が減っていっている問題なんかも、考えていきたいですね。

溝渕さんインタビュー8.jpg↑ウミガメのストランディング調査(漂着した個体の調査)も行う。中央が溝渕さん、右が長年溝渕さんと調査をしている岡田さん。

つなぎはウミガメ調査の定番スタイル

▶︎最後に、ウミガメ関係ないかもしれないんですが、私、溝渕さんとお会いしてから、ずっと気になっていることがあって。
溝渕さんはどうしていつも青いつなぎを着ているんですか?

つなぎは、僕の調査する時のスタイルなが。ちゃんと何枚もそろえちょった時は8枚あって、白もグレーもあったがやけど。
今は青いのばかり。どうしてつなぎを着るかっていうのは、服の中に砂が入らんようにするためよ。
上下分かれた服やと、いろんなところに砂が入ってかなわんのよ。それで、つなぎを着て、長靴の上に裾を出したスタイルに落ち着いたね。

▶︎ああ、そうなのか。ものすごい納得しました。
どうしていつも青いつなぎなんだろうって思っていました。

あれがトレードマークになっちょうね。
砂浜にはサーファーがいっぱいおるやろ。県外からもたくさんきちょうろ。
あれを着ているおかげで、サーファーから「おんちゃん、元気やった?」っていろんなところで声をかけてもらうね。
つなぎが、一番仕事がしやすいね。

▶︎それと、もう一ついいですか?
こうやって溝渕さんにお話を聞いていると、溝渕さんがウミガメに見えてくるというか…ちょっとウミガメに似ているって言われないですか?

そうなが。ずっとウミガメに関わってきて、だんだんウミガメに似てきたがよ。
犬、猫が飼い主に似るってことはよくあるけど、僕の場合、相手にしているウミガメの数が多いから、向こうが僕に似るんでなくて、僕がウミガメに似てきたがよね。

▶︎私たちも、ウミガメのこと溝渕さんみたいに熱心にやりだしたら、ウミガメ顔になるかもしれませんね。
溝渕さん、今日はありがとうございました。溝渕さんと話をしていると、もっとウミガメのことを知りたくなって、まだまだ、いろいろお聞きしたいことがあるのですが、今日はこの辺で。これからもいろいろ教えてくださいね。



ウミガメは、まだまだわからないことが多い生き物。
溝渕さんがやっているような現場での地道な調査や研究、保全活動が、とても大切。
こういった地域での活動が、世界におけるウミガメの保全に大きな意味を持ちます。
まずは、ウミガメのことを少し知ってみて欲しいと思います。


企画展《ウミガメ入門》は竜串ビジターセンターうみのわにて2020年9月30日まで開催!

空飛ぶ子ガメに、ウミガメの貴重な標本、ウミガメの一生を追ったまんがなどを展示しています。
ウミガメから私たちの暮らしや地球環境について、ぜひ考えてみてください。



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