研究ノート
SYNERGY DISH 2021 作用しあう皿 - TOSASHIMIZU
2021年10月に行った土佐清水ジオパークとSASAMI-GEO-SCIENCEの共催の展示・イベント『−地球と対話する− 南極絵巻と土佐清水の大地』。
この企画展示を行う期間、SASAMI-GEO-SCIENCEのササオカミホ氏は、土佐清水ジオパークに滞在し、アートワークを作成した。
完成したアートワーク”SYNERGY DISH 2021 作用しあう皿”についてのエッセイを寄稿してもらった。
文・イラスト
ササオカ ミホ |SASAMI-GEO-SCIENCE
編集
作田 愛佳|土佐清水ジオパーク
探究の根源
私は,仕事などで訪れた地へ滞在し芸術表現へ落とし込む実験をしている.
その土地に共存する異質なものたちのカケラ(大地・人・風土…)をフィールドワークによって私自身の身体へ作用させて作品へ昇華する.
これは「私とは何者か?」という問いを一つずつ腑に落とし(身体で解る)ていく職業「人間」としての「知覚のやりなおし」という仕事なのである.
滞在する地
滞在する地は「地方の地方」と決めている.
その理由は,その地がその地であり続けようとする気配があるからである.
近代化した均質な都市は無国籍化し,ミヒャエルエンデの「モモ」に出てくる時間泥棒に支配されている.
一方で,地方の地方へ踏み入ると,その地に流れる時間で生きている気配を強く感じとることができ,私には心地いい.
解らなさへの眼差し
今生きている現代社会はあまりにも「わかりやすさ」を追求しすぎ,「わかりやすさ」で溢れている.
そんな環境で生きている人間は「考える」機会が減っている.
つまり,誰か他者の言った言葉をあたかも「私は知っている」と勘違いしている現実である.
「言葉」は曖昧である,人間が作り出した叡智である一方,言葉によって視点の飛躍を去勢している.
いくら技術が進歩しても,我々人間は「現実世界」のコトなど全て知り得るコトはできないが,科学や芸術の言語は現実を知るヒントとなる.
人間の知性が行き着くのは「BLANK:余白」ではないか?と私は考えている.
マルセル・デュシャンが言った「アンフラマンス」や荒川修作が言った「切り閉じ」という所へ.
土佐清水でのアートワーク
土佐清水に滞在中にフィールドワークをした.
竜串の海岸を思索しながら歩き,その地で生活する人と話し,松尾という集落の下の海岸へ行きお皿のカケラを拾い,様々な風景の色を採取した.松尾の海岸。地元の人から「下の浜」と呼ばれる場所からの風景。足摺半島の先端からこの松尾にかけては花崗岩でできた入り組んだ磯が続いている。
「下の浜」には波に削られて丸くなった花崗岩の礫の中に、食器や瓦の破片など、人間が残した生活の痕跡が混じる。
かつてこの浜の周辺で暮らした住民の生活の断片は、数千万年の時を超えて、「生痕化石」になるかもしれない。
土佐清水の風景から採取した色たち。これらは分解され、「カケラ」となったあと、再構築され、新たな形を作る。
地球科学という学問は,目の前のモノから地球の時間軸を往来し,マクロとミクロの視点を自由に調節できるようにしてくれる.
私が採取したカケラ(色,皿,対話,大地...)は過去であり,未来であり,今である.
それらが地層のように積みかさなり作品のコンセプトが決まった.
「作用しあう皿」は異質なもの同士が作用し合いながら生きている土佐清水であり,地球という大きなお皿である.
地球という大きな球体のお皿の上で,我々はこぼれ落ちないように乗っかっている.この作品は私が捉えた土佐清水の風景である.
SYNERGY DISH 2021 作用しあう皿 TOSASHIMIZU
オイルパステル,和紙,皿,銅線
SYNERGY DISH 2021
浜に自生するハマゴウに絡みつく外来のアメリカネナシカズラを観た時,土佐清水の地に滞在し,その土地の栄養を摂取している外来の私は,アメリカネナシカズラそのものであると感じた.竜串、桜浜周辺で見られる外来植物のアメリカネナシカズラ。細く黄色い蔓でハマゴウに絡みつく。
大地の記憶も,風土の記憶も,私が採取した風景の色も,やがて松尾の海岸にあった皿のように断片化し「カケラ」となる.
私はそのカケラに絡みつく.
松尾で拾ったお皿のカケラから「作用しあう皿」を構築した.
地球というシステムの中で,物質は形を絶えず変え存在し続けている.
解体と構築を繰り返すシステム.
そんな大きな地球というお皿の上に我々は落っこちないように乗っかっている.
この作品は私が捉えた土佐清水の風景である.
ササオカ ミホ
science designer/余白の人
愛知県北名古屋市生まれ
信州大学 大学院修了(地球科学)
地球科学分野での仕事を約20年間経て2015年株式会社SASAMI-GEO-SCIENCE設立
サイエンスデザイナーの仕事をしながら、大地に学ぶ科学を根底にし、芸術表現の可能性を探る作家としての活動を展開している。