土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

研究ノート

マルバテイショウソウのこと

 マルバテイショウソウという植物をご存知でしょうか。今回は、土佐清水市にも生育するこの植物について、少し紹介したいと思います。

希少植物 マルバテイショウソウ

 マルバテイショウソウは明るい林の中に生育するキク科の多年草です。少し銀色がかった色のハート型の葉を地面に広げたような形をしていて、秋になるとそこから花がつくための茎が垂直に伸びて来ます。そして11月から12月にかけて、小さな白い花を咲かせます。この花が少し変わっていて、白くて細い花びらがねじれてついていて、まるで小さな風車のように見えます。すらりと伸びた茎に小さな花をたくさんつけた姿は可憐で、思わず見惚れる美しさです。

 マルバテイショウソウは日本では九州西部・南部に点々と分布しており、四国では土佐清水にしか生育していない貴重な植物でもあります。1978年に土佐清水市下ノ加江地区で発見され、ここ土佐清水市がマルバテイショウソウの分布の東限にあたるとされています。およそ20年前に豪雨によって自生地の環境が激変し、一時は市内の自生地の消失が懸念されましたが、2015年に改めて生育が確認されました。

マルバテイショウソウの好む森

 牧野植物園の瀬尾研究員によると、マルバテイショウソウは夏にはほどよい木陰があり冬は少し明るい場所、例えば木々の葉を落とす落葉広葉樹林の、水はけの良い斜面に好んで生育します。ところが、暖温帯に位置する土佐清水市の森林は、自然の状態では、冬でも葉が落ちない常緑広葉樹林(照葉樹林)です。現在はスギ・ヒノキの植林地になっている部分も多いのですが、これらの森林は冬になっても葉が落ちず、林の中は暗いままです。

 では、少し明るい場所を好むマルバテイショウソウは土佐清水でどうやって生き残ってきたのでしょうか。ひとつには、台風や土砂崩れなど、自然の力による土地や森の変化が考えられます。台風や土砂崩れによって森の木が倒れると、木の枝や葉が空を覆っている暗い森の中にぽっかりと明るく開けた場所ができます。このような場所には、日陰でゆっくり育つ常緑広葉樹よりも、日向で速く成長する落葉広葉樹が先に大きくなります。そうして常緑広葉樹と落葉広葉樹が入り混じった、マルバテイショウソウが好む適度に明るい森がつくられるのです。実際、下ノ加江地区のマルバテイショウソウの自生地は、水はけがよく土砂の移動が多い斜面に位置しています。また、人による森林の利用も関係しているでしょう。昔の人は薪や木材をとるために、林の木々を伐採してきました。この適度な伐採によって、やはり常緑広葉樹と落葉広葉樹が入り混じった明るい森ができます。

 ところが現代では、砂防ダムを作ったり急な斜面をコンクリートで覆ったりと、土砂崩れが起きやすい場所には対策が取られるようになりました。また、電気やガスが普及した結果、人による森林の伐採も少なくなりました。その結果、土佐清水ではマルバテイショウソウが好むような少し明るい森は少なくなっています。このような時代の中で、マルバテイショウソウの住む場所をどう守っていくかがこれからの課題です。

マルバテイショウソウを守り伝える

 2015年に自生地が再発見されて以来、マルバテイショウソウの苗を育てて保全地に植え戻す活動や、自生地の環境を整える活動が地域の方や牧野植物園の研究者を中心におこなわれています。また、地元の下ノ加江小学校ではこの保全活動を題材とした環境学習もはじまりました。地域の宝物であるマルバテイショウソウを守り、未来へ伝えていくための活動です。

(この記事は『広報とさしみず令和3年1月』に掲載された『マルバテイショウソウのこと』を加筆・修正したものです)