土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

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研究ノート

2024年4月17日深夜に豊後水道で発生した地震直後の行動調査(土佐清水市域)

はじめに

 2024417日深夜、豊後水道で発生したマグニチュード(M)6.6の地震が発生し、愛媛県愛南町と高知県宿毛市で震度6弱となったほか九州、四国、中国地方で震度3以上の大きな揺れとなりました。

 地震が発生したのは多くの方が就寝している時間だったにもかかわらず、土佐清水市民の皆さんの中には津波を心配して避難した方もいらっしゃったようです。

 そこで地震の際に実際にどのような行動を取ったのかについて調査したいと考え、土佐清水ジオパーク推進協議会では京都大学防災研究所矢守克也教授の研究室と共同でアンケート調査を行いました。

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どんな地震だったか

 2024 年4月172314分に、豊後水道の深さ39km M6.6の地震が発生し、愛媛県愛南町及び高知県宿毛市で震度6弱を観測しました。このほか、九州、四国、中国地方で震度5強~3の揺れを観測しました。震度階級が10段階となった199610月1日以降、高知県及び愛媛県で震度6弱を観測したのは初めてです。

 土佐清水市では有永で震度4、天神町、足摺岬、松尾で震度3となり、199610月以降では震度4は初めて、また震度3は2022年1月(日向灘の地震)以来8度目となる大きな揺れでした。埋立地や河口付近の軟弱地盤ではさらに大きな揺れを感じた方も多かったかもしれません。

 気象庁はこの地震に対して、最初の地震波の検知から5.5秒後の231459.7秒に緊急地震速報(警報)を発表しました。また、2317分には「この地震による津波の心配はありません」の情報を発表しました。

 なお、この地震は南海トラフ地震とは発生の仕組みが異なり、直接の関連はないとされています。南海トラフ地震はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界で発生します。一方、今回の地震は、沈み込んだフィリピン海プレートの奥の方の内部で発生したものです。

 

どんな調査をした?

 今回の地震では、発生したのは深夜で多くの方が就寝している時間だったにもかかわらず、市民の皆さんの中には津波を心配して避難した方もいらっしゃったようです。そこで、地震発生直後にどのような行動を取ったのかについて、土佐清水ジオパーク推進協議会事務局が京都大学防災研究所 矢守克也教授にご指導を仰ぎつつ、矢守研究室の岡田夏美助教ほかスタッフのご協力の下実施しました(質問内容については別紙参照)。なお、この調査は矢守研究室が、本年5月に四万十町で実施したものと同じ内容で行いました。

 土佐清水市域での調査では、南海トラフ沿いの巨大地震が発生した際に津波浸水が想定される地区の内、世帯数が多いところに質問票を配布し(2024531日)、各区長を通じて回答を収集しました(同年614日)。

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調査結果から読み取れること

1)地震時の行動の特徴は?

 回答結果は以下のようになりました。

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 回答者の内、地震直後に実際に避難所等に移動した人(①②)は1割弱ほど、また避難に向けての何らかの準備をした人(③)が5割弱と、併せて半数以上(54.3%)の人が揺れを感じて避難、または避難の準備を行っていたことがわかりました。土佐清水としてはあまり例がない大きな揺れを感じ、まずはすぐに避難するという行動を取ったと考えられ、津波に対する高い意識の顕われと考えられます。

 ④は情報を得ようとする行動は評価できますが、津波避難には少しでも早く開始することが大事だということを考えると、揺れを感じたら①~③の行動に移すことができるよう日頃から意識を持つことが重要です。⑤についてはなおさらです。

 

2)避難の手段は適切?

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 避難の手段についての質問では、自動車を使った人が半数近くでした。日常的に自動車を使う習慣があるから、あるいは避難後の移動の自由度を確保するからと推定できますが、当日も高台へ行く坂道が混雑していた証言もあり、また、東日本大震災では「車の渋滞」や「地震による道路の被害や道路上の瓦礫」が移動の障害となりました。また、徒歩で避難する人の安全な避難の妨げとなることも心配です。自力では避難行動が困難な方がいる家庭ではやむを得ないところですが、移動手段として何が適切かを考える必要あります。

3)「南海トラフ地震に関連する情報」の認知度は?

 今回の調査では、南海トラフ地震に関連した質問として、2017年に気象庁が発表を始めた「南海トラフ地震に関連する情報」について尋ねました。

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 まずこの情報について「知っている」「聞いたことがある」と回答した人は8割以上に上りましたが、16%強の人(6人に1人)が「聞いたこともない」との回答でした。

 内閣府が2023年に全国を対象に実施した同様の調査では、この情報を「知っている」「聞いたことがある」と回答した人の割合は64%で、これと比較すると土佐清水ではやや多い結果となりました。

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 また、この情報に接し、市役所が避難所を開設した場合の行動についての質問には、半数の人が避難すると回答し、半数弱が避難しない(自宅で生活を続ける)と回答しました。どのような行動が求められるかについては、この報告の付録にまとめましたので併せてご覧ください。

おわりに

 地震の直後に緊急地震速報が発表され、携帯やテレビから緊張感をもたらす不快な音色が鳴り響き、あまり経験のない大きさの揺れの中で落ち着いて行動するのは難しいことです。

 そのような緊迫した状況にあっても、過半数の方が避難につながる何らかの行動を取っていたことが分かりました。一方で、テレビなどで情報を入手するなどしつつも避難の準備をしていなかった方は3割ほどいました。

 揺れを感じた際には誰かに指示されるのを待つのではなく、避難することに意識を向けるようにすることが、災害から身を守る第一歩です。地震時に行動しない方々の割合を減らしていけるように、ジオパーク活動の中でも引き続き情報発信を進めていきます。

 今後、災害対応に関するさまざまな啓発の機会に、本調査結果が役立てられれば幸いです。

 

謝辞

 京都大学防災研究所 矢守克也教授には調査実施にあたってのご指導をいただきました。また、矢守研究室の岡田夏美特任助教及び同研究室のスタッフには調査データの全体的な整理や分析を行っていただきました。記して感謝申し上げます。

 また、アンケートにお答えいただいた市民の皆さん、取次をしていただいた各地区の区長様に併せてお礼申し上げます。

 

【参考】

「令和6年4月の地震活動及び火山活動について」別紙1 近畿・中国・四国地方の主な地震活動、(気象庁報道発表 令和6年5月10日)

「地震防災対策の現状調査に係る 住民アンケート 結果 (南海トラフ地震編)」(内閣府、令和5年11月)

津波避難対策検討ワーキンググループ 報告(中央防災会議、平成24年7月)


【質問票】
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【付録】

「南海トラフ地震に関連する情報」って、何?

 この情報は気象庁が2017年から発表を始めた情報です。南海トラフ全域を対象として、地震の発生状況など定期的に評価した結果や異常な現象を観測した場合、地震発生の可能性が高まっている場合などに発表されます。

 異常な現象を観測した場合での防災対応が内閣府で整理されたことを踏まえ、2,0195月からは「南海トラフ地震関連解説情報」「南海トラフ地震臨時情報」のふたつの情報に分けて発表しています。

 

「南海トラフ地震に関連する情報」は以下の2種類

・南海トラフ地震関連解説情報

毎月開催される「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の定例会合における調査結果を発表する場合など

 

・南海トラフ地震臨時情報

南海トラフ地震の想定震源域周辺で観測された異常な現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連するかどうかに関する評価結果を発表する場合。その際、評価結果に応じて「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」のようにキーワードを付加します。

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この情報は以下のような流れで気象庁から発表されます。

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情報を見聞きしたら何をすればいいの?

 

「南海トラフ地震臨時情報」が発表された場合にはキーワードに応じて次のような行動を取ることとされています。

 

・キーワード「巨大地震警戒」

家族との連絡方法、避難場所・経路、非常持ち出し用品など日頃からの地震への備えの再確認に加え、地震が発生したらすぐに避難できる準備をします。地震発生後の避難では間に合わない可能性のある住民(地震直後に津波が到達する地域、または避難に時間がかかる人)は1週間の事前避難を行う必要があります。

 

・キーワード「巨大地震注意」

事前の避難は伴いませんが、日頃からの地震への備えの再確認に加え、地震が発生したらすぐに避難できる準備をしましょう。

 

地震は予知できません!

「南海トラフ地震臨時情報」の内、キーワード(巨大地震警戒)(巨大地震注意)が発表されるのは地震が発生した後です。特に(巨大地震警戒)の情報が発表されるのはマグニチュード8を超える地震が発生した場合で、高知県の沿岸には大津波警報が発表されていることが考えられます。海岸付近にお住いの方々は「南海トラフ地震臨時情報」を避難先で聞くことになります。

「南海トラフ地震臨時情報」は地震を予知する情報ではありません。

 

 

 

【参考】

南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた 防災対応検討ガイドライン 【第1版】(内閣府、令和3年5月)