研究ノート
サンゴの健康診断 | 竜串リーフチェック
うみのわの目の前の竜串湾は、足摺宇和海国立公園の海域公園にも指定されている、とっても豊かなサンゴの海。
ここでは、人と同じように、毎年秋の健康診断が行われています。
|| その名も“リーフチェック”||
リーフチェックってなに?
リーフチェックの主な目的はふたつ。
①サンゴ礁に対する人為的な影響を、科学的なデータから把握すること。
②サンゴ礁の価値、保護についての啓発を行い、人為的な影響を低減すること。
国内各地で行われたリーフチェックの結果は、日本コーラルネットワークでとりまとめられ、最終的にはアメリカの本部で世界中のデータが集積、分析されます。
各地で行うリーフチェックで、地域的な異常に気付くこともあれば、全世界のサンゴのデータから地球の異変を見る場合もあり、まさに「サンゴの健康診断」といえる調査です。
なぜサンゴなの?
”リーフ”チェックする理由…サンゴがたくさんあるからでしょうか?もちろん、それも大きな理由です。
ただ、それ以上にサンゴが定点観測に最適な生きものだから、ということがあります。
砂や魚のように動くわけでもなく、その場にとどまり続けるサンゴは、成長しながら環境の変化を体に刻み付けています。
海水の高温化で白化したり、荒波にもまれて割れてしまったり、骨を調査することで年代測定が可能な場合もあるため、サンゴは良い指標生物になるという訳です。
リーフチェックに絶対に必要なヒト
リーフチェックは、世界中の調査内容を1か所に集めている科学的調査でもあります。
そのためそれぞれの調査地で、調査を担うひと、分析できるサイエンティスト、そして継続して取り仕切るリーダーが必要になります。
竜串では、竜串ダイビングセンターがチームリーダーとなり、チームサイエンティストには黒潮生物研究所を迎え、一般のダイバーを募ってリーフチェックを実施しています。
この三者がそろって行うリーフチェックも、竜串は今年で17回目。毎年、11月半ばの週末2日間を使って実施されています。
リーフチェックのおおまかな流れ
リーフチェックは毎年同じ場所、同じ時期に行います。その調査手法や項目は世界規模で統一されています。
基本的には3チームに分かれての調査ですが、竜串では、各チームにプロダイバーやサイエンティストメンバーが入ってくれる贅沢仕様でした。
魚類チーム「レジャーダイブの目玉"魚"がターゲット。ダイビングの時の見る目が変わる!」
・5m毎にライン上の魚類をチェック。
・先陣を切って、魚が逃げてしまう前に調査する必要がある。
無脊椎チーム「魚ほど動きの速くないものを、落ち着いて見られる!」
・5m幅を20m毎にブロックに区切り、エビ、ウニ、ナマコ、ヒトデなどの無脊椎動物をチェック。
・サンゴの病気や破損、食害などの異常についても記録する。
底質チーム 「サンゴに詳しくなれる。毎年会いに行けるいきもののチーム!」
・50㎝ごとにライン直下の環境をチェック。
・サンゴや海綿、岩、砂などに分類して記録する。
“竜串の”リーフチェック
リーフチェックは、上記とは別に独自項目を追加することで、地域色の現れる調査内容になるのも面白い点です。
竜串では、以下のような観察ポイントを設定しています。
魚類:サンゴ食と雑食のチョウチョウウオの数、熱帯魚の数
(造礁サンゴ被度との関係を調べる)
無脊椎:ベニシリタカとギンタカハマ(地域名ツメタカ)の数、サンゴの食害状況
(地域で食される貝の増減を調べる)
底質:ハードコーラルの分類と被度
(サンゴの種類と被度の変動から環境変化を調べる)
気になる2023年の結果は…
チームサイエンティストがそれぞれのチームの結果を分析してくれました。
底質:サンゴ被度が低下するも、毎年変動があるため、数値上は低下していても大きな懸念はなし。ただし、一部減少率の大きいサンゴがあるため、注視が必要。
魚類:雑食性のチョウチョウウオが最も多く見られたが、例年よりは減少。ただし、遊泳性の魚類は年変動を考慮する必要がある。その他、竜串のリーフチェックでは珍しい魚種を確認。
無脊椎:ギンタカハマ(ツメタカ)を多く確認したが、今回は特段の変化や環境悪化は見られなかった。
最後に
リーフチェックは、学術的な価値が高い調査ではありません。同じ範囲、時間、内容で専門家が行えば、もっと正確で早くできてしまいます。
現に、普段はのほほんと趣味でダイビングをしているだけの私が、魚類チームでの参戦となった今回、チョウチョウウオを覚えるのに必死でした。(←その痕跡)
その甲斐あってか、これ以降ダイビングの度に、目の端に入るチョウチョウウオに注目してしまっています。
こんな風に、普段のダイビング中であっても、違う視点で海中を見る目が増えれば、些細な異変にも気が付きやすくなる…かもしれない、というのがリーフチェックの目的の一つでもあります。
この体験を踏まえ、竜串のリーフチェックを継続することで竜串の海に関わる人が増えていくことに、大きな意義があると気づいた2日間でした。