研究ノート
今井の化石小考
更新日:2021.3.1
僕が子どもの頃からずっと愛してやまないもの、それは、化石。
人はなぜ、化石に惹かれるのか。
化石は生活にどのように役立っているのか。
僕が、化石について考えたこと。
化石と聞くと、博物館に展示されている恐竜の骨格やアンモナイトを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、化石は博物館で私たちを楽しませてくれるだけではなく、社会の役に立つ存在なのです。
たとえば、化石から地層ができた時代や当時の環境がわかることがあります。
この性質は、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を探すのに利用されてきました。
また、気候変動や大規模自然災害に対する懸念が高まっている昨今ですが、地球誕生から現在までの46 億年間には、現在よりもずっと温暖だった時代もありましたし、寒かった時代もありました。
巨大な火山噴火や地震・津波も幾度となく発生しています。
そんな時期の化石を調べることで、気候変動や自然災害が生態系に与える影響を推測することができるのです。
現代社会における重要な課題である「生物多様性」をより理解するためには、化石が教えてくれる生物の誕生や絶滅、進化の過程に関する情報が欠かせません。
化石には、別の意味での重要な役割もあります。
それは知的好奇心を刺激し、発想や創造の源になる、という点です。
実際、化石に関する新発見はしばしば全国ニュースに取り上げられますし、化石をモチーフにした映画やゲームのキャラクターも数多くいます。
なぜ人は化石の惹かれるのでしょうか。
化石が持つ魅力の一つに、「不完全性」があります。
生物の遺骸は、化石になる過程で軟体部は腐り、硬い骨や殻も壊れたり、溶けたり、変形したりしてしまいます。
過去の生物すべてが化石として残っているわけではありません。
そして、過去に戻って化石になった生物の生きていた姿を確認できない以上、化石について完全に理解することはとても難しいです。
そんな不完全な記録である化石を調べようと思うと、たくさんの化石を根気強く集め、それらから少しでも多くの情報を引き出すために注意深く観察し、欠落してしまった部分は想像で補うことになります。
そんな作業が、人の知的好奇心を刺激するのではないでしょうか。不完全だからこそ美しいのです。
化石の魅力の影響を受けたであろう人物も少なくありません。
たとえば、世界的な植物分類学者である牧野富太郎。
彼は化石産地として有名な佐川町の出身で、若い頃は化石採集に熱心に取り組んでいたそうです。
ちなみに、牧野富太郎といえば背広に蝶ネクタイの正装で植物調査をしていたことで知られていますが、このこだわりは化石採集に同行した地質研究者の影響を受けたものと言われています。
また博物学者の南方熊楠も、積極的に化石を収集していたことが知られています。
すぐれた詩や童話を残した宮沢賢治は、幼少期から石の収集が趣味で「石コ賢さん」と呼ばれていました。
彼は、彼自身が「イギリス海岸」と名付けた岩手県花巻市の河岸でクルミの化石を発見しました。
この河岸と化石は、「銀河鉄道の夜」など数々の作品に登場します。
化石以外の分野で活躍した彼らですが、化石に触れた経験がきっと活かされていると思います。
ここ数十年で世界人口は爆発的に増加し、2019年の時点で約77 億人が地球に暮らしています。
その分、地球環境の改変も進んでおり、人類が地球環境に多大な影響を与えている現代を、「人新世」という新たな地質時代として区分することも提案されています。
このような状況の地球で、どうすればこれからも豊かに暮らしていけるのでしょうか。
そのためには、過去の地球環境について教えてくれる大地の遺産や、長い時間をかけて人類が培ってきた地球との付き合い方に学ぶことに加えて、全く新しい発想や創造を生み出していくことが重要かもしれません。
大地の遺産であり、なおかつ新たな発想や創造の原動力である化石は、これからも人々に愛され続けることでしょう。
3月21日、図書館で化石のイベントやります!
詳細はこちらから!
ライター
今井 悟(ジオパーク専門員)
大学の学部生の時から、竜串の地層を研究しています。
今まで日本全国、各地の地層を見てきたけど、僕は、土佐清水の竜串の地層が一番好きです。
2021年4月から、島根の博物館で研究員として働くことになりましたが、土佐清水には引き続き、調査・研究で訪れると思いますので、皆さんよろしくお願いします。