土佐清水を自由研究する地域研究紙≪アオサバラボ≫

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研究ノート

青鯖的読書案内|書を持ち野へ出よう。認識の世界を広げる科学のよみもの

更新日:2020.10.2

認識の世界を広げる科学のよみもの

本っていいよね。
本は自分の脳みそのハードディスクだったり、孵化装置だったりするもの。
読むだけで、記憶を引っ張り出すこともできるし、別の世界にだって行けるし、
現実世界の見える範囲を広げて、アップデートしてくれる。

青鯖的読書案内では、外の世界と自分の内部をつないでくれたり、知覚を広げてくれたりする本を、自然や科学、風土をキーワードにご紹介。

今回、紹介するのは、「科学のよみもの」。
科学のよみものは、頭の中に大掃除の後のようなさわやかで気持ちのいい風を吹かせてくれる気がする。
曇りだらけだったガラス窓をピカピカに磨いた時のような感じ。
だから、読んだら、世界の見え方も少し変わる。
なんだか、子どものとき見たいに世界がキラキラして見えて、見るもの全てに感動するのだ。

さあ、科学の本を読もう。そして、書を持ち、野へ出よう。

※それぞれの本の画像には、出版元のリンクを貼っています。
気になる本があったら、ぜひ、まちの本屋さんに取り寄せてもらって買ってください。
まちの本屋さんは、まちのかけがえのない財産ですからね。


ドミトリーともきんす  高野文子

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 科学者のエッセイの読書案内を漫画で行うという実験的な本。漫画は、科学の美しさや普遍性を表すかのように感情を極力排除した端正な筆致で描かれる。その筆致と科学者の言葉が調和し、不思議な世界観を作りだしている。
 科学者のエッセイといえば、高知出身の物理学者寺田寅彦が元祖だと思われるが、ここに出てくる科学者たちは、寺田寅彦の少し後の世代の方々。まだまだ、今のように科学が細分化される前、世界を丸ごと見ていた科学者たちだ。
 漫画の中では、若き日の科学者たち(物理学者の湯川秀樹、朝永振一郎、中谷宇吉郎、そして、高知出身の植物学者である牧野富太郎)がとある寮に下宿しているという設定。科学者たちの「知りたい」という情熱や自然を美しいと思う気持ちがとても尊い。中でも、湯川秀樹が子どもたちに向けて書いた詩、『詩と科学』は、あまりの美しさに涙なしには読めない。詩も科学も根っこは同じ。文系・理系といった枠を超え、世界を美しいと思える感性を教えてくれるはず。(選者:作田)


波紋と螺旋とフィボナッチ  近藤滋

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 土佐清水が誇るブランド魚、「清水さば」の背中をよく見たことはあるだろうか。背中のしましまをよーく見て見てみよう、その柄はまるで迷路のようで、見ていると抜け出せなくなるし、何か宇宙の神秘に触れているような気さえしてくる。サバ柄意外にも、貝殻や植物など、自然の造形は、どうしてそうなったの?という摩訶不思議なものが多く、そこにはある種の法則めいたものが潜んでいるような気がしてならない。そんなことを考えている時に出会ったのがこの本だ。
 実は、清水さばの柄は、チューリングパターンといって、数式で表すことができる。かの天才数学者アラン・チューリングの実績の一つで、ほぼ全ての生き物の柄を数式で説明できると提唱した。このチューリングパターンを世界で初めて実証したのが、この本の著者。自然界の造形の秘密がこの本を読むと少しわかる。そして、研究者という人たちの秘密の宝探しなど、その生きざまもわかって興味深い。(選者:作田)


フィールドの生物学シリーズ  東海大学出版部

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 新進気鋭の研究者たちの半生と共に、研究対象の生き物を紹介するシリーズ。研究に関する内容も面白いが、特に魅力的なのが、研究者自らが語るその生き様である。皆さんは、何らかの新発見や新技術について、ニュースなどで目にする機会も多いだろう。その裏側で、研究者たちはどのように調査や開発を進めているのだろうか?華々しく美しいサクセスストーリー?歩いはドラマのような欲望と利権が渦巻く世界?分野によってはそんなこともあるのかもしれないが、このシリーズで語られているのは、苦悩、落胆、偶然、出会い、その他諸々に彩られた研究者たちの青春である。このシリーズを読むと、裏山で、水路で、道端で見かける様々な生き物それぞれに、人生をかけた研究者のドラマがあることを思い、胸が熱くなる。そして、今よりも少しだけ、愛や親しみ、興味を持って生き物たちと接することができるような気がするのだ。
 シリーズのうち、どこから読んでも楽しめること間違いなしなので、自分の興味関心のある生物をテーマにしている巻から始めるとよい。ちなみに私は、「10.凸凹形の殻に隠された謎 腕足動物の化石探訪」からファンになった。(選者:今井)


ソロモンの指輪  コンラート・ローレンツ

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 ソロモンの指輪の伝説をご存知だろうか。古代イスラエルの王ソロモンは、魔法の指輪の力であらゆる動物たちと語り合ったという。
 ところが本書の著者、動物行動学の祖であるコンラート・ローレンツは、指輪などなくても動物たちと語らうことはできると主張する。彼は、地道な行動観察によって動物たちの「言葉」を読み解いた。ローレンツが発見した、「鳥のヒナは最初に見た動くものを親だと認識する」という刷り込みの話は有名だ。本書はローレンツが観察して読み解いた動物たちへの関心と愛情に満ちている。科学の基本は自然を注意深く観察すること。この本はそれを改めて思い出させてくれる。(選者:森口)



知っていることが増えると、そして、意識することが増えると、たちまち世界の見え方が変わる。
本はそのお手伝いをしてくれる脳みその孵化装置みたいなものかもしれない。
「おー、そうなのか!」と知識と知識がつながったときのあの感じ。
脳みその薄皮のようなものがペロリとめくれて脱皮するようなあの感じ。
あの感じを繰り返すことって、生きている上での喜びの一つだと思う。
本を読んで、野山で自然観察をして、自然の本質的な美しさや、身近な自然の豊かさに触れてみてほしい。



地域研究誌アオサバラボvol.1より再編集